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寝る寸前に思い出すあたり、どうよって感じですかね。
ごめんなさい。前日まではお祝いしてあげないとって思っていたのに。

亡国番外編。
西浦です。
迅がトウセイにくる2ヶ月前の話になりますね。
あれ4月からスタートって事なので。

ぶっちゃけ、西広先生、お誕生日おめSS。
出てる人が西広、花井だけだけどね。

続きからどぞ。

 

 

三人が集まる事は、それこそ何十年ぶりのことだろうか?

この地に降り立って、右往左往しつつ、ここに生きる人々と一緒に生きてきた私たち。

優しくて愚かで、それでもどうしようもなく、愛しい命たちよ。

願わくば、永久に続けよ。

命の輪廻……。

 

『 Resto del filosofo 』


真っ暗な丘の上。
ポツンと小さな家影。
長身の少年が星明りの元、迷いなく細い道を進んでいく。
腕時計のライトをつけて刻を確認する。

あと少しで、日が変わる……。

 


「おい。またこんな所で星を眺めてるのか?」
花井が町外れの天候観測所に来ると、薄暗い明かりの中で、毛布に包まったものがもそりと動いた。
毛布から顔を出した彼は、懐中電灯を片手に分厚い本と、目の前にある天体望遠鏡から見える星の調べを照らしあわしながら、花井に笑いかけた。
花井は「しょうがないなぁ」と頭を掻きながら寄ってくる。
「シガポが中央に行ってる間、おまえしか医者いないんだぜ?」
放蕩医者なんて洒落にもならないよとぼやかれて、彼は苦笑するしかなかった。
「ごめん、花井。どうしても今星を見たかったんだよ」
「そんなんで何が解るのさ?」
花井のもっともな問いに、彼は答える言葉を選びざる得ない自身を、ちょっとだけ疎ましく思った。
「……これから先の運命だよ」
「星占術も得意だったのか? 西広は」
へーと声を上げた。
「……そんなもんかな」
曖昧に答えて、やはり時は来たんだなと、空を裸眼で見つめる。
顔を夜空に上げた西広につられて、花井も顔を上げた。

彼らの住む中央より西にあるニシウラは田舎街として、農作物の育つ土地として有名だ。
貴族達の別荘などがあり、田舎にしてはかなり裕福な街である。
ほとんどの住人が農作業を行うのを仕事としてるが、花井は警備自衛団の隊長を務めている。ラインとしての力もあることが最近解って、中央にこないかと誘われているが、迷っているところだ。
「オレ、ここが大好きなんだよ」
「……唐突になんだい? あぁ、迷ってるんだ」
同じ年頃の中で一番早熟であろう花井が、その持て余し気味の長い足をぎゅっと折り曲げて、膝の間に顔を埋める。
「……中央に行きたい気もする」
「うん」
「ラインの力があれば、もっとこの街の役に立てるだろうし」
「……花井はいい子だね」
その物言いにさすがにムッとして花井が顔を上げた。
「西広。おまえたまーに同い年の俺らを子供扱いするよな」
いくらその年で天才として、医療の技術やいろいろなものをシガポから仕込まれてるからって。
「ごめん……。大人ばかり相手してきたから」
「……ごめん、オレもまじ、ガキくせーな」
花井がまた丸くなる。

それを横目で確認して、西広はそっと息をついた。

ごめんね、花井。
僕は確かにみてくれ通りの年齢しか生きていないけど、だからといって、中身もそうとは限らないんだよ?

「そう、肝心の用事忘れるところだった」
腕時計の微かなアラーム音に、花井がポケットに手を突っ込む。

「なに?」

ポンと。
花井が西広に何かを放ってきた。

「なんだい? これ?」
「今日お前の誕生日だろ?」

西広が目を丸くする。
花井がにっと笑った。

「忘れてただろ?」
「あ、うん。そうか、今日僕の誕生日だ」
手に持ったプレゼントの重みが増す。

誕生日を祝ってもらうなんて、どれほどぶりなんだろう。

そういえば、ここに来てから、毎年祝ってもらってる。

「誕生日、おめでとうな。西広」
花井が笑顔でそう言ってくれた。

それだけで、なんか。

「ありがとう、花井」

胸がいっぱいになれる。

「朝になったら、おまえ引っ張りだこだぜ。みんなでお祝いしようって算段だし」

しまった!
言っちまった。泉にど突かれると、花井が青くなる。
それに西広は声をだして笑った。
花井がキョトンとする。
「お前がそんな風に笑うなんて、珍しいな」
「ふふ、本当に。久しぶりに大きな声で笑うことができた気がする」
「田島と付き合ってれば、もっともっと笑えることあるよ」
花井が呆れ顔でそう言う。頷いて返しながら。

 

空にもう一度西広は顔を向けた。

後数ヶ月後、たぶん賢者の鷲たる三橋はここに現れるだろう。

頭上には雷鳴の鷲が控えている。
彼もまた目覚めている。

鷲達がそろい始めている。
そしてその周りで、宿命をおった者達が集まりつつある。

花井がしょうがねーから付き合ってやるよと、眠気覚ましの飲み物を作りに簡易台所に向かう。
それをにっこりと見送りながら。

西広は自身の記憶にある刻が、確かに近づいていることを、感じ取っていた。

 

どうか鷲達よ。

力なき賢者を導きて。

愛しい命達の運命を貫きたまへ。

 


来年も、皆と誕生日を迎えられますように。

それが西広の、今一番の願い……。

 


2008.02.10
      しゅりんか

あとがき
お誕生日おめでとうー☆ 西広先生。
彼は亡国でもそれこそ先生です。この年で医療関係のエキスパートです。
そして……もちろん地味でありながら、キーパーソンでもありますね。
実は島迅にとっても彼は大事な存在です。彼がいないと……。

出るまで書けるのか、私。心配。

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